(番外1)中島愛/Be With You 全曲レビュー

(画像はAmazonから。リンク先も同様)

先日リリースされた中島愛のセカンド・アルバム『Be With You』がかなりの名盤だったので、思い切って全曲レビューを書いてみたくなった。本ブログは同人音楽紹介を主眼としているのだが、今回は番外編ということで、ご容赦を。





総評


「キラッ☆」ランカ・リーでノリにノッた中島愛の2枚目のアルバム。作家陣は非常に豪華。ご存知、アニソン界の巨星・菅野よう子、ハウス界の王子Rasmus Faber。ROUND TABLE、ラヴ・タンバリンズ等の渋谷系人脈。ジャニーズやハロプロ等で、Jポップ界を生き抜いた歴戦の作家陣も。

当然、アニメ・タイアップ関係も多くて、彩り豊富。アイドル的な「着せ替え人形」感が楽しい。ともすれば、それは、散漫さにも繋がるのだが、中島愛はすべて曲を彼女なりのものとして受け止め、真摯に、かつ無理なく彼女らしく歌いこなすことに徹し、「穴埋め曲」「捨て曲」がまるでない。

また、中島愛自身が松田聖子ら80年代アイドルの熱心なファンであり、彼女たちへのオマージュに溢れている。LPレコードを意識し、曲順、曲間の空白までこだわったというから凄い。そんな熱のこもった一作。アニソン・声優・アイドルポップに抵抗なければ誰にでもオススメしたい。


1. Wake Up


切れ味良いホーンを前に出したファンク・チューンはEarth, Wind & Fireを思わせる。国民的宴会ソング、モー娘。「LOVEマシーン」で一世風靡した、ダンス☆マンの手によるものだ。朝のTVの星座占いを題材にしておきながら結果は「全部最高!」と放り投げる。オチはそれかい。

特徴的なのは「みんな起きてぇー!」に始まる、陽気なコール・アンド・レスポンスと、締めの「行ってらっしゃい」という夫を送り出す新妻のような挨拶ボイス。声優らしくあざとい。中島愛自身が「アイドルオタク」として研究し尽くした「あざとさ」だろう。承知の上で掌の上に乗るしかない。

2. TRY UNITE!-Extend Version-


ハウス界の貴公子Rasmus Faberによる、アニメ「無限のラグランジュ」主題歌。ハウスと言えば規則的なリズムを長時間打ち続けるようなダンス音楽で、1分程度で盛り上げるアニメ等の主題曲にはあまり向いていないが、さすがの辣腕Rasmus、絶妙にポップに、切なく壮大に仕上げている。

ラテン・ハウスのリズム、ディープ・ハウスの浮遊するような音色、アシッドジャズ風のお洒落なメロディが重なり、ベースが跳ね、弦が翔けギターがシャープに刻まれる。中島愛の声の伸びやかさが花開く。宇宙的なドラマの拡がり、まさに無重力の疑似体験をさせる、爽快さを感じさせる逸品だ。

3. メロディ


ROUND TABLEの北川勝利によるビートルズ直系の英国ソフトロック風味で地味め柔らかに展開するトラックに、ユメトコスメの長谷泰宏のストリングス・アレンジが添えるセピアの色彩。メインは中島愛の甘やかな、松田聖子を彷彿とさせる「キャンディボイス」が、五臓六腑に染み渡る。

高域でキラキラしたシンセ系の音色、いわゆる「上モノ」は、曲の第一印象を決める調味料だが、中でもストリングスはその代表格であり、当アルバムでも、まるで速水もこみちのオリーブオイルのように多用される。その曲想にピタリとハマる中島愛の調理のされ方に注目して聞きたい。

4. 恋


アニメ「セイクリッドセブン」挿入歌。静かな打ち込みリズムに、アコギ・ピアノ・ストリングスが叙情的に盛り上げる、典型的なR&B風スロー・バラード。ハロプロ関係の楽曲に実績の多い、鈴木Daichi秀行の、危なげない仕事だ。アルバム前半戦においては箸休め的存在だと言える。

この曲では中島愛の声質の変化に着目したい。裏声寄りで、呼気を多めに、啼くように切々と歌いこなす。作曲者のイメージを受け止めては、咀嚼し、それを超えて、千変万化に歌いこなす表現力。本来の声優ならではの、それこそが演じる歌とでも言うべきなのかもしれない。

5. FLY


打って変わって、コミカルなピコピコ系エレクトロ・ポップ。それも、Perfumeとか今風でなく80年代パンク・ニューウェーブ臭。中島サイドの注文だろうか。「ゆうゆへのオマージュ」だという、地声と裏声を合わせたミドルボイスの、ふわふわ漂う歌い方がゆったりと心地よい。

アイドルらしい可愛らしさを演じる、そのことさえ可愛らしい。作編曲のコモリタミノルは、ジャニーズ等Jポップの最前線で生き残ってきた猛者だけに、そつのない仕事をしている。くすぐったいような、不思議と安心するような、何か懐かしいような、中島愛の魅力を存分に引き出しているのだ。

6. 夏鳥


死別した旦那か彼氏の田舎に訪れ「二人で来たかった」的なことを語る(……まるで演歌みたいな)歌詞だが、しっとりながらも軽やかなサウンドで、さほど重さは感じず悪くない。アニメ「たまゆら」のED曲ということで、もしかしてアニメの内容にリンクしているのかも知れない。

結果としては、アルバムの折り返し地点のチルアウトとしての良い仕事を果たしたと思う。ゆったりと心地良くベースはグルーヴを演出し、時に包み込み、時にスタッカートで刻むストリングスが、全体に緩急を加えて印象的。この曲の後に中島愛自らこだわりの余白数秒を挟み、アルバム後半戦だ。

7. 宇宙的DON-DOKO-DON


後半戦開幕は疾走感のあるブラスバンドが特徴的な、スウィングロック。アレンジの西脇辰弥は、國府田マリ子の仕事で私としては非常に馴染みがある名前。ゲーム&アニメ等のメディアミックス戦略が本格化し、声優ソングが流行の兆しを見せる90年代、その黎明期を支えた、練達の業前である。

「ラグナロクオンライン」7thアニバーサリーソングスのタイアップだが「少年と少女が手を取り合って宇宙まで行く」という、タイアップ先とはあまり関連のない詞をつけてしまう、中島愛の超絶チョーシこいた感じが最高である(……もしかして最近のROは宇宙に行くのか?)。

8. Hello!


アニメ「無限のラグランジュ」ED歌。来たよ、ピカピカのポップソング。北川勝利に、長谷泰宏の弦アレンジというTr.3と同じ職人コンビが、中島愛という瑞々しい素材を最高に輝かせるため、欧風ポップ風味に、とびきりお洒落でキュートなアレンジで、シャッキリポンとした味付けで出す。

スネアが規則正しく導くモータウンビートに、シンプルで奇を衒うことのない進行。特にサビ頭はドレミファソラシドを登って行くだけ(ビートルズのHello, Goodbyeの対旋律を思わせる)だが、すごく前向きで胸がキュンと高鳴る、エヴァーグリーンなナンバーに仕上がっている。

9. つながるまで


アニメ「セイクリッドセブン」最終回ED。元ラヴ・タンバリンズの宮川弾のアレンジは、ソウルR&Bを基調に、しっとりピアノ+ストリングスの導入から、楽器が加わり重なりあい、徐々にドラマチックに展開していく。王道と言うべき、スロー・バラードである。

ソウル・ディーヴァなら、うおォンとパワフルに歌い上げ、分厚いコーラスでガツンと行くと思われる曲想だが、中島愛にそんなものを求めている人はいないだろう。むしろ背伸びせず、現代のアイドルらしい等身大の歌唱に注力し、順当に佳曲に仕上げている。

10. 好キッス! KISS!!


タイトルを見て赤面。うわあ……なんだこれは。たまげたなぁ。作詞作曲の木村有希という人は、ブーンブンシャカの彼に曲を書いている作家。しかも、この曲は「と~るりーす」という、中島愛のライブ・ツアーのスポンサー会社様向けの、CMソングであるらしい。要は大人の事情。

さて、そう来ると「穴埋め」の匂いがプンプンするわけだが、あえて鈴木Daichi秀行が「昔のアイドル、というよりアニメソングっぽい」(カードキャプターさくらの「Catch Me Catch You」を思わせる)アレンジに仕立ててくれているので、あまり深く考えず楽しく聞ける、珍奇な一品。

11. 神様のいたずら


アニメ「たまゆら」EDテーマ。うーん、渋いセンスだなあと思ったら、大江千里が作詞作曲。アレンジはTr.6と同じ清水信之。この人は、大江千里のスタッフだ。要するに大江千里本人の音楽と同じ体制で作った作品を、そのまま、中島愛にインストールしているわけだ。

しかし、切々たる語りかけのような説得力のある歌唱は決して昭和のアイドルに引けを取らない。松田聖子よろしく圧倒的な存在感をもって、自分の世界を描き出す。昭和のアイドルとはアイドルであり、歌手である。これが、中島愛。昭和アイドル直系の遺伝子をまざまざと魅せつける。

12. 金色~君を好きになってよかった


ラストを飾るのは、菅野よう子作曲、Rasmus Faber編曲の8分超えの大作だが、プログレ的な超展開も、重厚なハウスやトランスのビートもなく、一聴すると淡々とA→B→サビを繰り返す普通の歌。だが、ソナタ形式にも似た構成美で描き出す8分間の物語は、尋常の流行歌と明らかに趣を異にする。

この曲については、紙幅を多く割いて説明しよう。

サビ(主題)「君を好きになってよかった~僕らが歩いた日々、金色」という思い出語りに対し、サビ間のブリッジ「この手にいまでも感じる」が(影の)第二主題に連なる伏線。間奏と、3コーラスを経て主題再提示後、一旦終止。このまま、何事もなく終わるのが通常のポップスだ。

しかし、この曲はコーダ(結尾)部があって、リバース系の音色で再びフェードインし、ブリッジ(第二主題)の反復で終止感を残さず、余韻を残してフェードアウト。そして最後の最後、中島愛が「ずっと一緒だよ」とそっと囁きかける。それって……つまり、どういうことだってばよ?

「僕らの歩いた日々」過去は「いま」現在へ連なり、また新しい朝は来る。最後の曲が終わっても、CDをリピート再生すれば(Tr.1へ戻れば)また一日が来る。まだ終わらない人生を、その時、一日一日を、一緒に過ごしたい。だからこそ中島愛は語りかけるのだ。「ずっと一緒だよ」と。


最後に


以上、最後の仕掛けも含めて、アイドル・声優・アニメポップスとして非常に素晴らしいアルバムである。当世風の「電波」とか「萌え」系では決してない。だが、覚えておくといい。中毒性は高い。中島愛はずっと一緒にいるのだ。知らんぞ。リピートが止まらなくなっても知らんぞ!

<了>
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by kx8_CrabCat | 2012-06-06 02:45 | その他音楽